いつのまにかMagic of Ascanio英語版1~4、ならびに日本語版1がまた手に入るようになっていることに気付きました。めでたいですね。そういうわけで思い立ったので書きます。
といっても日本語版に誤訳があるとかないとかこんな訳文は許せねえまたAさんが死んだとかそういう話ではないです。日本語版はそもそも読んでおりませんので、出来については何もわかりません。ではなにかというと、英語版を読んでいるときに「これ誤訳かな」と思った箇所があり、あとで確かめたら誤訳というほどのものではないものの、違和感そのものは正しかったということがありました。その違和感というのが、意味が通っていないとか言い回しがひっかかるというのとは違う珍しいパターンだったので、ここで紹介したいと思います。
アスカニオの用語にカバーとプレゼンテーションというものがあります。理論の中身には踏み込みませんけれども、簡単にいうとこれは対になった概念で、それぞれ『見せたくないものを見せないための手段(カバー)』『見せたいものを見せるための手段(プレゼンテーション)』といったところでしょう。英語ではcoverとpresentationです。
……違和感がありませんか?
対になる概念として、単語の長さというか音節の数というかが明らかに不釣り合いです。日本語なら攻守とか外見と内面というように語数がそろいます。英語だとまたちょっと事情も違ってくるかもですが、いずれにせよアンバランス感はぬぐえません。
で、スペイン語版を見ましたらばCoberturaとPresentaciónとなっていて、あーこれならまあ、coverとpresentationよりはバランス的に納得がいきます。とはいえほぼ一意に対応する語があるので、coverとpresentation以外には訳しようがねえよなあ。仕方ないパターンですね。
おまけ:タマリッツと誤訳
これも誤訳ってほどではないかもしれませんが、スペインつながりで紹介します。さっきいろいろ書いたけれども、これは英語版を読んだときはさっぱり気付きませんでした。
タマリッツの著作にThe Magic Wayという有名なものがあり、ちょっと前に再版しました。副題というかロングバージョンのタイトルがあって、The Method of False Solutions and The Magic Wayとなっています。なんですが、原文を見るとEl método de las pistas falsas y la vía mágicaなんですね。
どの語も英西で語源が一緒らしく、スペイン語わからなくてもなんとなく意味はとれます。ところがひとつ違って見える単語があって、それがpistaです。もちろん語源を共有していない同じ意味の単語というものもありますが、試しにpistaで辞書を引くと『ヒント』や『手がかり』と出てきます。
――となると、タマリッツの論旨がだいぶ違ってはこないでしょうか。
この本でタマリッツが説く理論のキーワードFalse Solutionsを、私は『間違った解決策』と考えていましたけれど、Pistas Falsasなら『間違った手がかり』だったのではないか。最終的に目指すところが同じとは言え、この二つの語は意味するところがだいぶ異なります。
といっても、スペイン語版の中身は読んでませんから、実際のニュアンスとしてはsolutionで正しい訳なのかもしれませんけれども。
※イタリア語版もFalse Soluzioniとなっちゃってますな。