とても久しぶりに手品の動画を見た

のが去年(2023年)の末ぐらいだったのですが、折角なので感想を文字にしておこうかと思いました。見たのはFool Usです。Aleš Hrdličkaのリング・ジャグリング動画を見て、そこから関連で出てきたものをいくつか見ました。

 

 

 

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Aleš Hrdličkaのリング・ジャグリングはこれです。素晴らしいアクトで、特に言うことはありません。観客にとって十分に馴致(tame)された原理(たとえば重力や物の材質など)がうまいタイミングで裏切られて、気持ちよく騙されます。一時停止の誘惑に駆られると思いますが、そこは押し殺して、まずは通して見てほしいところ。繰り返しの再生に耐える不思議ではないのですが、そもそも手品じゃないのでそこは問題ではありません。いいアクトでした。生で見たら一生ものの思い出になったことでしょう。

 

 

 

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Stuart MacDonaldの、魔法の鏡に映した物が実際に倍になってしまう手順。こういった『タネが見え透いている手品』は、タネは分かるけれどそれでもおかしい、とならないと成立しません。たとえば検めが異常だとか、物量がおかしいとか、そのタネではあり得ない物体(安直な例では、燃えているものや液体、生き物など)が出てくるといったことです。そういった工夫がないので、この手順は成立していません。観客の想定するタネそのままです。同じ趣向で成立している例としては、ネチポレンコhttps://www.youtube.com/watch?v=VezPcS4r5Wsなんかを見ましょう。

『魔法の鏡』という物語にしたのも弱い。Paul HarrisのTwilightに見る如く、鏡はそれ自体で既に『倍化』の不思議の根拠になりえます。物語にしたことで、観客にとってただ観賞するだけのものになってしまっています。つまらないアクトです。

え、これFoolerなの?

 

 

 

www.youtube.comJohn-Henry Larssonのジャグリングとカップス&ボールスのアクト。Pennの言うとおりに"Perfect!"です。しかしながら、ある範囲の中での『完璧』にすぎません。そしてFoolerでもありません、残念ながら。

このアクトのよさはそのシンプルな美しさにあります。ジャグリングにしろ手品にしろ一昔前のものなのですが、それが完璧に調和している。これ以上に趣向を凝らそうとしても、アクトの良さは損なわれてしまうでしょう。

とにかく動きがいいし、現象に合わせて顔を寄せて、カメラ映えする画を作ることも忘れません。全方位的に『完璧』であり、ショーをやるなら是非とも呼びたい人材です。しかし手品として見ると不思議ではないし、ジャグリングとして見ると卓越してもいない。難しいところですね。

 

 

 

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Jaana Felicitasの、氷がテーマのアーティスティックな演技。アート系の手品は、一瞬でも観客の気持ちを醒めさせるとすべてが茶番になってしまうのが難しいところですが、本手順はぎりぎりその綱を渡り切れていないと感じます。水と氷ならではの現象を交えている点は高評価ながら、演技時間を埋めることができずにつまらない現象を入れてしまい魔法が破れている。

オチの現象は、他の素材であればマトモな現象にならないところ、この道具立てであればこそクライマックスになりうるものであり、センスは良いと思います。

 

 

 

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娘に捧げる、お菓子を使ったアクト。特に言うことはないです。つまらないです。

 

 

 

2023年末の手品視聴は以上です。

実は先日、生まれて初めて、第一線の手品を生で見る機会に恵まれました。大変に素晴らしかったのですけれども、次はそれを良い感じに言語化できたらなーと思います。