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ソフト・スリービングの進捗

・GLiM vol.1 no.4:On Soft Sleeving

Essential Sol Stoneという本があって、そこでSoft Sleevingという技法が解説されている。著者のStephen Hobbsによれば全く気配のないスリービングであるらしい。にわかには信じがたいのだが、同書の他の手順などを読むにつれ、Sol Stoneならあるいは本当に気配なくスリービングできるのでは、と思えてくる。

そんなわけで折を見て、ときどき、稀に、練習している。今のところまだまだ気配が出まくりなのだが、幾つか気付いた事があるのでそれらをメモしておきたい。なお私はスリービング界隈には詳しくないので、それぞれ既存だった場合はご指摘願いたい。また「そもそも原著にそう書いてあるじゃん」ってな事があったらそれもご指摘乞う。

 

さて、Soft Sleevingはどうやら映像になっておらず、文章での解説のみからその理想型を想像しなくてはならない。特にこの本では、ほとんど最低限の手続きしか書かれていないのだ。こういった場合、その技法に固有の利点、もうすこし咀嚼して言うなら、このコインの持ち方、飛ばし方に固有の利点を探ることで、原案者の意図を把握するのが重要と思う。

以下、次の五項目について記述する。

  1. 人差し指
  2. 45°の手
  3. 力加減の正否判定
  4. ピボット・バニッシュ
  5. フィンガー・パーム

 

Index Finger 

大きな特徴は、この手法が中指ではなく人差し指を使う事である。この利点として、他の指がつられにくいという事が考えられる。人差し指は親指に次いで独立性が高い。

スリービングの動作自体は中指でも問題なく行えるが、ほぼ不可避的に薬指が連動してしまう。そして薬指は技法に対して何ら機能を果たしていないので、言ってしまえば無駄な動作である。

なお指が繋がっているために困るといえばピアノで、調べると指の腱間結合を切ってしまう人もいるとかいないとか。(なお現在では解剖学的な要因だけでなく、神経心理学的な要因もまた大きいことが分かっているらしい)*1

 

45 Degree Sleeving

スリービングというと、手の甲を天井に、手の平を床に向けた状態で行うイメージを持っていた。しかしどうもそうとは限らないらしい。手の平を真下ではなく左斜め下45°の角度にし(※右手で行う場合)、腕も内側に向ける。つまりちょうどフェイク・パス直後の状態である。ここで普段通りにスリービングを行うと、これが割と素直に入ってくれる。これはSoft Sleeve Short Routineでの用例である。

コインの軌道が露見しやすくなること、軌道に角度がつきすぎると袖が揺れてしまうこと等がデメリットだが、手の動き自体は少し減りそうだ。

これ自体は特にスリービングの種類を問わないが、Soft Sleevingであれば中指~小指によって人差し指の動きを観客の目から遮ることができないだろうか。これまで練習してみた限りでは、十分なカバーとしてはちょっと機能しなさそうなのだが、もう少し検証してみたい。

 

Soft Sleeve Practice

正解の見えないSoft Sleevingだが、練習の目安をひとつ見つけた。One-Hand Spectator Sleeve Changeという、観客に手を捕まれた状態で(言葉での説明が難しいが観客の親指を握るような形になる)スリービングを行うちょっとどうかした手順がある。たしかCoin Magicにも収録されているはずだ。

裏を返せば、この状態で観客に気付かれない力加減という事である。

というわけで、練習の時はたびたび自分で反対の手の親指を握ってスリービングし、力が入りすぎていないかの目安にしている。

 

with Pivot Vanish

Soft Sleevingに固有の利点を考えるにおいて、Sol Stoneの他の技法や手順との相性を見るのもひとつの方法である。たとえばPivot Vanishとの相性が考えられる。Sol StoneはPivot Vanishを好んでいたようだが、その消失後のコインのポジションはSoft Sleevingの開始ポジションと非常に近いように思う。

Pivot Vanishからシームレスに繋げるために、あのポジションになっているのかもしれない。

 

with Finger Palm

もうひとつの可能性として、人差し指だけで技法が行えるため、フィンガー・パームのコインと干渉しにくいのではないか、という事が考えられる。実際Soft Sleeve Short Routineにはこういった場面がある。

 

 

そんなわけで試行錯誤のSoft Sleevingである。今回は指先の話に終始したが、原著では他にも腕や手の平の角度、動きについても記述があり、それらの意図なり効能なりがまだ十分につかめていないので、先は長そうだ。

ともあれ、なんとか会得したいものだが、そろそろジャケットが着られる季節ではなくなってしまうのが悩みどころだ。

*1:ピアノにおける指の腱間結合と、神経心理学的な話については次のページで見た。

ブルース・バーンスタインのUNREALが訳されてしまった

「ブルース・バーンスタインUNREALが訳されてしまった」と複雑な表情で言っていたAさんが、先日また「ブルース・バーンスタインUNREALが訳されてしまった」とこぼしてきた。 

 最初のとき複雑そうだったのは分かる。UNREALはBruce Bernsteinという人の書いたメンタリズム本で、彼も買った当時ずいぶんほめていたから、それが日本語になって広くシェアされるのが面白くなかったのであろう。度量の小さいことだ。

 だが何でまた同じ事を嘆くのだ。訊くと、ファイルからA4の紙を2枚取り出した。ひとつは『行間を読む』と題されたエッセイの冒頭で、問題になっている本をコピーしたものらしい。もうひとつはその原文と思しき"Reading Between the Lines"というエッセイのこれも冒頭部分だ。

行間を読む

私の作品に興味を持ってくれてありがとうございます。世界中の演技者が、観客の大小にかかわらず、私の作品を演じてくれることを私は本当に光栄に思います。 

Reading Between the Lines

Thank you for your interest in my material. It is truly an honor to know that performers the world over have studied, and better yet, have regularly performed my creations for audiences big and small.

 アンダーライン+文字色赤で示した箇所が省かれているが、まあ大意は間違っていない。ふんふんと読み進める。 

私は、演技と指導も楽しみながら行い、それがまた私の創造性を刺激します。新しい現象や技術、改案、またはちょっとした方法の違いによって演技が大きく変わります。しかし、演技者が実際に演技する中で重要なことは、“現実の世界”で何が求められ、必要であるかを認識することです。

 And although I enjoy performing and consulting, it's the drive to create that obsesses me. Coming up with a new effect, a different approach, a subtle technique, or sometimes even just a little touch that seems to makes the difference, is what I consider my greatest skill.

However, it's important for those of us who operate behind the scenes to realize that performers who work in the "real world" have needs, want, and requirements that must be understood. Creators often(略) 

なにやら雲行きが怪しくなってきた。まずアンダーライン+文字色赤が省かれているし、そもそも文章の意味が違っていやしないだろうか。原文は私にはかなり晦渋で、まるで自信はないのだが……。

  • 演技やコンサルトも楽しいが、私の本分はクリエイト
  • "現実の世界"で演技している人々には種々の要望があり、それを理解するのがクリエイターにとって大事

ってことではないのか?

Aさんを見ると、まあそんなところでしょうねえ、と言いつつも歯切れが悪い。何かと聞けばそれ以前に『ですます調』が気に入らないのだそうだ。面倒くさい人だ。「いやね、この人は後で自分でも言ってるんですが、もっとエゴの強い、傲岸で不遜な感じの人なんですよ」そう言ってAさんは隠し持っていた紙束を出してきた。どうやら耐えられなくなって自分で訳したものらしい。暇なのだろうか。

あなたは確かずっと取り組んでいる原稿があって、多くの人を待たせているのではなかったか、と私が言うと、Aさんは青菜に塩をかけたかのごとく、見る間にしおしおと縮んでいったが、それでもか細い手を伸ばして、分かったからせめてここだけも読み比べてくれと言う。同じエッセイの、少し下ったところだ。

口ス・ジョンソンは優れたメンタルマジックの演技者です。ステージ上で、彼は優雅に演技を行いますが、それだけでなく彼はビジネスの面で“細かい”ことに気づく人物でもあります。以前私が卜二一・アンドルジーのlnvocationalsで演技をしたあと、口スとその演技に関して会話したことがあり、そのことが私の演技をより良くしてくれました。そのとき、ステージ上で私は“過去、現在、未来”をテーマに演技しました。

(時間の問題を過去、論理的な新聞紙の予言を未来、そして、観客の持っていたものを当てるサイコメトリー・リーデインクを現在のテーマとして演じました)

その後、口スは時間の問題が好みだ、と言ってくれたので、私はその秘密を教えようかと言いました。それに対して、彼は、それはポケットに入れておけるようなものか? と訊いてきました。私はなぜそんなことを訊いてくるのかと、混乱したものの、そのあとすぐに、彼が私の方法をより良くしようとしていることに気づきました。彼がマジックを演じるときは、スーツの外見が崩れない限り、道具をポケットに入れて舞台に上がります。

私はそれに気づいて衝撃を受けました。現象はその方法だけで成り立つのではなく、さまざまな要素が取り入れられて成り立つことを、彼がわかっていたためです。

Ross Johnsonはこれまで"メンタルなもの"を演じてステージを飾った人々の中でも、最も優れた演技者のひとりだ。そしてRossは偉大な演技者であるだけでなく、業界でも有数の『細部に目が利く』人間である。Invocationals(※)のある回で私が演技を終えた後、私とRossはその日の私の演技について雑談をしていた(演技は上々だったと私は思っている)。私のステージは『過去、現在、未来』という主題をなぞるもので、極めて好評だった(過去として"A Matter of Time"を、未来として"Logical Newspaper Prediction"を、そして現在として、その場で観客たちから持ち物を借りて"Psychometory Reading"を演じた)。

※Tony Andruzziが主催していたコンベンションの名前

 

"A Matter of Time"が気に入ったとRossが言ったので、私はすぐさま、秘密を教えようかと申し出た。彼の返事は、ポケットに何か入れる必要があるだろうか、という問いだった。最初、私は少し困惑した。どうして第一声でそんな事を尋ねるのかと。私はそれを、彼は手法についてカマを掛けているのだろうと理解した。

私の困惑を見て取った彼は、ポケットのスペースが重要なんだと続けた。演技をするときは、もうスーツのアウト・ラインが崩れない限度までポケットに道具を入れているから。 

まるで雷に打たれたような衝撃だった。良いトリックとは、ただ手法だけでなく、様々な要素によって出来ているという事に気づいたのだ。Rossは100%的を射ていた。

 

Aさんの訳が正しいのかどうか、私には判断できない。しかし少なくとも、前者の訳文がまずいことは分かる。特にポケットのくだりは意味が通っていない。Bernsteinは微妙な言葉遣いを利用したトリックも多かったはずなのだが、エッセイがこの調子ではそちらも推して知るべしだろう。「そんなに悔やむなら先に自分で訳せばよかったねえ」と私が言うと、そうですねと虚ろなAさんの声が聞こえた。顔を上げると、もうそこにAさんはいなかった。きっと原稿をしに帰ったのだろう。なおAさんは架空の人物であり実在しない。